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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)3148号 判決

理由

一、先ず原告の被告に対する請求について判断する。

(一)  原告がその主張の債権差押及び取立命令を得たこと、は当事者間に争がない。

(二)  そこで右差押及び取立命令に言う債務者水上光雄が第三債務者とされる被告に対して、建物賃貸借終了を原因とする敷金返還請求権を有するかを検討するのに、《証拠》によると、右訴外水上光雄は昭和三九年一月二〇日被告から被告所有の豊中市庄本町一丁目一一番二五号所在の軽量鉄骨二階建工場建物を最初の六ケ月間は一ケ月五万円、その後の一ケ年間は一ケ月六万円、その後は一ケ月七万円の賃料とし保証金と称するものを一五〇万円とする、右契約終了の場合は右保証金の中二割を施設品その他の損料として控除して借主に返還すること、借主に於て故意過失により施設品を取除いたり設備々品を滅失毀損したときは貸主に損害賠償する等の約定で借受ける賃貸借契約を結んだことが認められる。次いで《証拠》を総合すると、訴外水上光雄は右賃貸借契約によつて借受けた右建物で水上ライト工場として、個人企業を営んでいたが、間もなく、これを会社組織とすることとし、昭和四〇年に這入つて訴外泰光樹脂株式会社を設立し、右建物を工場事務所等に使用することとし、被告の承諾を得て右建物の賃借権は勿論右賃貸借契約に基く権利義務一切を右新設会社に譲渡し、爾来右訴外会社が借主となつて賃料を被告に支払つて来たことが認められる。

(三)  そうすると、昭和四二年当時訴外水上光雄が前記建物の賃借人であり賃貸借終了による被告に対する敷金の返還請求を有するとする原告の請求はその余の判断をする迄もなく理由がないから棄却すべきである。

二  次に参加人の原被告に対する請求について判断する。

(一)  訴外泰光樹脂株式会社が昭和四二年七月二四日破産宣告を受け、参加人がその破産管財人に選任されたこと、原告がその主張するような債権差押及び取立命令を得たこと、は当事者間に争がなく、且少くとも賃借人が誰であるかはさて置き、参加人主張の賃貸借契約の終了したこと、は当事者間に争がない。

(二)  被告は参加人の主張する敷金返還請求債権額の点を除いて参加人の主張事実を認めるところであるが、原告と被告との間には民事訴訟法第六二条の準用があるものと解すべきであるところ、原告は前段認定の事実以外の参加人の主張事実を争うから、被告の右の自白は自白としての効力を有しないものと言わなければならない。

そこで《証拠》を総合すると、被告所有の前記一、の(二)に記載の工場建物についての賃貸借契約の成立その内容及びその契約上の権利義務が適法に訴外泰光樹脂株式会社に移転し昭和四二年当時賃借人が右訴外会社であつたことは前記一、の(二)に認定した通りの事実を認めることができ、且被告と訴外水上光雄との右賃貸借契約当時右訴外人が被告に対し、契約の文言上保証金と称した一五〇万円を支払つたこと、従つてその約定による返還請求権も訴外泰光樹脂株式会社に移転したことを認めることができる。

(三)  ところで被告と訴外泰光樹脂株式会社との前認定の賃貸借契約が終了したことは、その日時の点を除いて当事者間に争がなく、その日時の点についてはこれを明確に認定しうる資料はないが、被告本人尋問の結果によると被告が訴外泰光樹脂株式会社からその賃貸建物の明渡返還を受けたのが昭和四二年六月三〇日であることが認められるから、合意解除のなされた日時を確定しえないけれども右訴外会社は少くとも合意解除の日迄は賃料として、その翌日以降右六月三〇日迄は右賃料相当の損害金を支払わねばならないことが明かである。

そこで前認定の一五〇万円の性質を考えるのに、契約の文言上は保証金となつていることは前認定の通りであり、賃貸借終了の場合は二割を控除して賃借人に返還することの約定であることも前認定の通りであるから、これらの事実と弁論の全趣旨とに徴すると右一五〇万円は所謂敷金の性質を有することは明かである。そして敷金の性質を有する以上賃借人が賃借建物を明渡し返還義務を履行する迄にその賃貸借契約に基いて負担する一切の債務を担保するものであるから、被告は右一五〇万円の中から延滞賃料その他の損害金を控除して賃借人に返還すれば足るものと言わねばならない。参加人は前認定のように賃貸借契約に於てすでに二割を控除することを約しており、これは損害賠償額の予定であるから延滞賃料の控除は止むを得ないけれどもその他に損害が生じていても右二割の額以上に損害賠償金として控除すべきでない、と主張するが、右一五〇万円は前認定のように敷金の性質を有するとは言え、唯それだけのものではなく、所謂権利金の性質をも有することは、前認定の賃料額との比率に照し明かであるから、右二割控除の意味を参加人の主張するように解することができない。殊に被告本人尋問の結果によると本件賃貸工場建物は当初被告が賃借人水上光雄の注文に応じ同人の用途に適するように建築して貸し与えたものであることが認められることに徴すると尚更権利金の性質を多分に有するものと言うことができる。

(四)  果してそうだとすると、被告は右一五〇万円の中何程を控除して返還する義務があるかを検討しなければならない。そこで先ずその二割に当る三〇万円を控除すべきは当然であり、弁済の立証のない昭和四二年二月以降六月末日迄の間の約定の延滞賃料と同額の損害金を控除すべきことは明かである。更に《証拠》を総合すると、被告が賃貸工場建物返還を受けた当時にはこれを修復するに合計三七万七五〇〇円を要する毀損を受けていたことが認められるから、右毀損が何人の責に基くかはさて置き賃借人の原状回復義務の不履行により、被告は右同額を損害賠償請求額として控除しうるものと解すべきである。((五)省略)

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